大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1608号 判決

次に控訴人等は右森崎の無権代理行為につき民法第百十条の適用を主張するのでこの点につき考えてみる。

証拠を綜合すると、(イ)森崎は昭和二十一年頃より昭和二十四年八月二十五日迄の間更生会社鉄道工業株式会社四国営業所の経理部長の地位によつて同営業所長安孫子徳太郎の指揮監督の下に経理事務を担当していたものであるところ、同人が控訴人等三名と前記消費貸借及び譲渡担保契約をなすにあたつては前記安孫子所長の承認を得てその代理人として取引する旨を控訴人等三名に表示し控訴人等三名はこれを信じて取引をしたものであること、(ロ)控訴人等三名が更生会社に金銭を貸付けたのは本件が最初であつてそれ以前に同種の取引はなかつたこと、(ハ)控訴人等三名は前記各契約をなすにつき事前に安孫子所長に対し直接その意思を確める措置をとらなかつたこと、(ニ)安孫子所長は昭和二十二年八月頃交通事故により負傷した為一時欠勤していたことがあつたが昭和二十四年四月及び五月頃は平常通り右営業所に出勤執務していたから控訴人等三名が安孫子所長に対し直接その意思を確めるのに妨げとなるような事情は別になかつたこと、がそれぞれ認められる。思うにかような事情の下において相当多額の金銭貸付をしようとする控訴人等三名としては、単に森崎の言を信ずるだけでなく直接安孫子所長について取引の意思を確めるべきであるに拘らず、かような措置に出でることなく漫然契約を締結したのは控訴人等三名の過失というの外はない。もつとも前認定の如く、右の契約締結に際し控訴人等三名が受取つた売渡証(乙第六号証の一)及び借受証(乙第七号証)には「鉄道工業株式会社四国営業所安孫子徳太郎」及び「安孫子徳太郎」なる記名捺印があり、当審証人安孫子徳太郎の証言によれば、右名下の印影は同時に控訴人等三名が受取つた安孫子徳太郎の印鑑証明書(乙第六号証の三なおこれを受取つたことは前認定の通り。)に顕出されている印影と同一のものであることを認めうるけれども、前段認定のような事情の存する本件においては未だ控訴人等三名の過失を免れしめる根拠とするに足りないと解するのが相当である。その他控訴人等の全立証によるも右認定を覆すに足る資料はない。従つて本件については民法第百十条を適用する余地なく、この点に干する控訴人等の抗弁もまた理由がない。

(奥田 牧野 岸上)

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